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短い夏の夜の夢

「歩いて帰ろう」。 打ち合わせを終えた足で向かった電車の駅では、改札口を人々がひっきりなしに往来している。夜の10時を過ぎようかという、平日の、真ん中。 久しぶりの都会の改札口にあふれる群衆をうまく切り抜けられず、柱の影にもたれかかり、足を止め、電車には乗らず、くるりと向きを変えた。 歩こうと思えば、どこまででも歩いて行ける。 最近暮らし

学校に行けなくなった日の話

きっかけは、ただの頭痛だった。 持病やアレルギーなどが無いわたしは、風邪も滅多に引かないし、いたって健康体で育ってきた、はずだったのに。 それはたしか、志望大学の模試を受けに行った、秋のはじまりの日。 たしか、と言いつつ、はっきり覚えているのだけれど。 制服を着て、意気揚々と、A判定(合格可能ライン)を取ってやると、足取り軽く歩いていた歩

晴れの日だけ踊るマドンナ

彼女は、いつも輪の真ん中にいる。 晴れた日が好き。特に、雨の少ない、夏の始まりが好き。 ばんざいをして、両手をひらひら、風にゆれる花びらのように動かしながら踊る。 真夏よりも、まだやわらかい陽射しは、踊るのにちょうどいいの、と、かつて彼女は言っていた。 雨の日は、いつもうなだれて、元気がない。いつも踊る踊りも、すっかり忘れてしまったかの

銀色の川を三つ超えたら

車輪の動きが直に座席に伝わり、ガタゴトと刻むように揺れて進む電車の窓から、一つ目の川が見えた。 南中時刻で真上に昇った白い日光を受けて、川の流れがギラギラと銀色に反射し、河原に茂る草木はそれらを覆うように黒い影になって揺れていた。 突き抜けるような空には、かすれたような白い雲が、切れたりくっついたりして間から水面に光を落としていた。

林檎と地下鉄|#ある惑星の出来事 3

女性。 黒髪。 胸元まで伸びた長髪。 まっすぐに前を見たままの茶色い瞳。 左手には無造作に丸めた英字新聞。 もう片手に、一口分欠けた林檎。 斜め掛けの黒い小さなエナメルのバッグ。 フラットな、黒いパンプス。 胸元に少しギャザーが入っている深いV字のカットソー。 ハイウエストのスカートからすらりと伸びる足。 足は二本、組まれ、黒いパンプスは、左側が