LOG IN

石畳のある街|#ある惑星の出来事2

by 立花実咲|Misaki Tachibana

石畳の道路に、プラスチックでできた安っぽい寿司桶が捨てられてあった。

その中には、手つかずの巻き寿司がぎっしりと詰まっていて、寿司桶からいくつか崩れてこぼれ落ちた寿司と酢飯が、小雨の降る石畳の上に散乱していた。

その寿司桶が捨ててあった場所は、ゴミ置場でも飲食店の近くでもなくて出勤や通学で比較的若くて忙しい人たちが往来する街路の脇だった。

時折、黒く艶のいい革靴やシンプルで品のいいパンプスが足元の酢飯に気づかずにそれらを踏んで通り過ぎて行く。

昨日の夜、4〜5人の若者のグループで囲もうと思ったのか、それとも工事現場の作業員たちで休憩時間につまもうと思ったのか。

ほとんど一つも減っていないその寿司桶の寿司はもはや捨ててあるのか置いてあるのか分からないほど整った状態だった。

雨が弱まったり強まったりする最中、しばらく寿司桶はそのままになっていたけれど、やっぱり誰も見向きもしない。

ぺったりとした靴底の、すらりとした足首のいくつもが、それぞれの目的地へ向かって石畳の上を往来している。

そんなに足早に、どこへ?

信号が変わるのも待たずに、急いで向かう先は?

煉瓦が敷き詰められた道にはヒールには適さない。敷き詰めてあるレンガの隙間にヒールが挟まってしまうから。スニーカーやフラットな靴であればいくらでもどこまででも歩ける。

最小限の荷物で、身軽に闊歩するつま先の行方は、彼ら彼女らしか知らない。

放置された寿司桶は小雨に晒されて、誰かの足の裏に酢飯を散らせて、誰にも食べられることはない。

早く遠くへ行けても、石畳はなんだか落ち着かない。歩けば歩くほど、わたしはこの道に導かれているのか自分の意思で進んでいるのか分からなくなってくる。

この道の先には何がある?

あんなにたくさんの寿司を地面に放置して、あなたはあなたの目的地へ。

その寿司桶が、その後どうなったのかは、誰も知らない。


立花実咲|Misaki Tachibana
OTHER SNAPS