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学校に行けなくなった日の話

by 立花実咲|Misaki Tachibana

きっかけは、ただの頭痛だった。

持病やアレルギーなどが無いわたしは、風邪も滅多に引かないし、いたって健康体で育ってきた、はずだったのに。

それはたしか、志望大学の模試を受けに行った、秋のはじまりの日。

たしか、と言いつつ、はっきり覚えているのだけれど。

制服を着て、意気揚々と、A判定(合格可能ライン)を取ってやると、足取り軽く歩いていた歩道橋の上で、突然、歩くとこめかみあたりの血管がドクンドクンと大きく脈打つのを感じるようになり、歩を進めるたびに足の裏で地面を踏むたびに、その振動が直接血管を弾いているように頭がガンガンと響いて、歩けなくなり、座り込んだ。

うずくまって、こめかみを抑えて、じっと「治れ治れ」と小声で言う。

これから、大切な模試なのに。

志望校に近づくための、大事な試験なのに。

そう思えば思うほど、血管はますます強く弾かれたようにガンガンと、そのまま破裂するんじゃ無いかっていうくらい、脈打っていた。

きっかけは、頭痛だった。

翌日、朝起きるとなぜだかとても体がだるい。

「頭が痛い」と言って、遅刻をして学校へ行く。

そしてだんだん、あの日ほど頭痛がしないのに、頭が痛いような気がして、「うん、頭痛がする」と言い聞かせながら横になるようになる。

横になっている間、時計の針はどんどん進み、やがて登校時間を過ぎて一限目が始まる。

ぼーっと時計を見ながら、頭は痛くないな、とどこかでわたしは知っている。なのになぜだか体が動かない。

今まで何も考えず、自転車にまたがって翻るスカートを適当に押さえつけながら学校まで通っていた日々が嘘みたい。

校舎の前に行くと、胸焼けがする。

そして、授業中で誰もいない口を大きく開けた校門を見ていると、なんとなくだった頭痛が突如我に返ったように、わたしの頭を殴る。

「どうしてこんなところに行かなくちゃいけないの」と、どこかでわたしが泣いている。

「行かないと。夢を掴むために大学へ行くんでしょ?勉強しなくちゃ。遅れを取るぞ」と、焦るわたしがお尻を叩く。

それでも、わたしの体は死んだように動かない。

後退もできない。前進もできない。

がらんどうになってしまった。まるでわたしの体じゃないみたいだ。

「どうして学校に行けないの」と母は泣く。

分からない。

分からないの。

わたしも教えてほしいくらいだよ。

でも、誰が何をしようと体が動かない。

わたしですら、手綱を握れていないのだから。

いじめられていたわけでも、勉強が嫌いだったわけでもないのに。

ただわたしは、あの空間の常識を、有無を言わさず、上から押し付けられることに反骨心を燃やし過ぎて、その炎で自分の頭の血管を焼き払ってしまったのかもしれないね。

牙を剥いたその先が、あまりにも暖簾に腕押しで、わたしの牙は行き場をなくし、研ぐこともできずにボロボロになって、いつのまにか自分の体を研ぎ石がわりにしてしまっていたのかもしれない。

そうして、わたしの体はいつのまにか、わたしの心と切り離されて、すっかり言うことを聞かなくなってしまった。

きっかけは、頭痛だった。

その頭痛も、ただの偶然だったのかもしれないのに。

わたしはその日から、学校に行けなくなった。


写真提供:@chanuuuuuさん(縁側のある平屋に住むのが夢。一日一回更新:https://medium.com/9hours


立花実咲|Misaki Tachibana
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